くろねこちゃんとベージュねこちゃん

感想系
03 /19 2012
谷賢一さん主催の演劇集団
DULL-COLORED POPの新作
『くろねこちゃんとベージュねこちゃん』
小竹向原のアトリエ春風舎にて、作画担当さんと観てきました。

可愛いタイトルとキュートな猫ちゃん役者さんズに導かれ、
平凡な家庭の傷を抉られる平成ポップな戦う会話劇。約100分。

ざっくりあらすじ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
真面目に税理士として働いて来た父が突然事故で亡くなる。
残された母・専業主婦のよし子(61才)。
父の死によって久しぶりに実家で集まる息子(&嫁)、娘。
心のバランスを崩した母をとりまく幻の猫たち。
しかし、父の残した遺言状が見つかって・・・?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

夢を追う息子に、家業を継いで欲しいと願う母。
仕事をしたがる娘に、思いやりの心を求める母。
「お母さんはね、あなたのことが心配なのよ・・・」

”ふつうのお母さん”って、怖くてタチが悪くて悲しくて愛おしい。
「夢を仕事にできるわけないでしょ!」とか
「つらいことをやり続けるのが仕事なのよ」とか
「女は家庭に入って、旦那様を支えなきゃダメよ」とか
出るわ出るわ。”お母さん”あるある名言集。


「普通」とか「家」とか「親」とかについて
考えたことのある方、悩んでいる方には、ドスン!と重く、
ズシズシしみる舞台です。かえってスッキリするかも?


*これから、新潟・仙台・京都・大阪・広島・東京(凱旋公演)と
 全国を回って公演があるそうですので、演劇初心者の方にも
 通の方にもオススメします!!

 
濃い感想は、続きにて。
(物語の核心ネタバレはしていません)


開演前の舞台で猫役者さんたちがお茶会をやっていて、
お客は紅茶がもらえるという趣向がありました。
勇気を出して猫からお茶をもらい、ちょっと舞台に座り込んで
すすっていたら、谷さんと話ができました。
空から振ってきた猫二代目の名は・・・!みたいな話。

え~~劇中で非常に多発される「お茶を飲む?」というセリフ。
あのお茶、飲んじゃったよ・・・・と何度も思いつつ観劇するのは
珍しい体験でした、と記しておこう。




”お母さん”を逞しい男性役者が演じる絶妙さはダルカラっぽい。
観ているうちに、本当におばさんに見えてくるから凄い。
”お父さん”が、本当にいい形で収まってて・・・痛々しくて
目が離せなかった。

母のゴーストもしくはスタンド的に駆け回る妄想猫たちが、
シリアスとポップを行き来して場面場面を引き締める。
メリハリ感と妄想と現実の線引きが、完全に計算され指揮された
魔術師の仕事だとダルカラの舞台を観るたびに思う。


身近なテーマだけに、舞台の進行と共にお客さん達の
ぷちトラウマに引っかかる気配が客席に充満してゆく異様さ。
もうやめてくれ!! 
という心の叫びが波のように聞こえた気がした。

息詰まるクライマックスで泣く、泣く、泣く・・・。
客席のかなりの数が泣いていた。私も作画さんも泣いた。
あのベンケイに救われたのは、実は観客だったのだ。


そして、舞台が終わった後には
生まれ育った家を違う目で見ている自分に気がつく。
観た人それぞれが、家庭の数だけ何かを思う。

『くろねこちゃんとベージュねこちゃん』は、
感情から切り離して語ることが難しい舞台です。
人間である限り、母から生まれてこない者はない。

誰の記憶にもある、様々な痛みが蘇ってきて
冷静に客観視することができない。

グレートマザーという名のモンスター。
それは根源であり愛であり癒しでありながら・・・・
全てを呑み込む闇の子宮。




・・・ちなみに、うちの母は、よし子さんとは真逆です。
うちは普通じゃなかったけど、感謝していますよ。お母さん!
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SERA WORKS

 原作:千堂 櫂
  (せんどう かい)

 作画:太刀川 京
  (たちかわ みやこ)