イルスの竪琴

感想系
08 /03 2009
『イルスの竪琴』三部作
パトリシア・A・マキリップ 作
090802_2010~01
画像は左上の洋書が英語原作第一巻で、原題では 
”ヘド(島)の謎の解き手”→→日本語版で『星を帯びし者』。
第二巻『海と炎の娘』、第三巻『風の竪琴弾き』・・・です。

原語版表紙の階段を下りる紫服のごつい人物(主人公)が、
日本版表紙だと山岸凉子先生の繊細で華麗な絵で!
~~~~~原作者マキリップが大喜びしたのも頷けます。
(英語でも日本語でも、主人公のイメージは山岸版寄り)

注))日本語版は絶版。大事に保存します。復刻望む!!


<かんたんあらすじ(ネタバレなし)>

一巻では、頭はいいけど地味で頑固な草食系主人公モルゴンが
   襲われたり記憶を失ったり襲われたり裏切られたりで、
   驚愕のラストに「なぜだ!!」と読者もびっくりして終わる。

二巻では、行方不明のモルゴンを探しに暴風みたいな三人娘+αが
   痛快な旅を繰り広げて、うっかり主人公いらないじゃん? とか
   思ってしまった読者をまた驚かす展開。謎、展開、謎。
   ヒロインのレーデルルがただの美人じゃないと世に知らしめる巻。

三巻では、伝説の魔法使い達も登場して、役者はそろい踏み。
   強大な力を持つ真の敵の正体がついに明らかに。
   竪琴弾きデスが千年掛けて紡いだ謎の答えとは・・・?!



中学二年生で『指輪物語』にどっぷりはまった私が、
大きな本屋や古本屋でハヤカワFT文庫を闇雲に
探しまくって読みまくった(置いてる本屋が少なくって!)
中でも珠玉の名作。

ミステリーとして読めるほどスリリングで、結末が判ってから
読み返すと、もうたまりません。
推理小説の最後、名探偵がどんなに鮮やかに謎を解いても、
どうしても割り切れないものが残るものですが。
謎に次ぐ謎・謎・・・の『イルスの竪琴』にはそれがない。

全ての登場人物が当事者であり、世界に巻き起こる大きな嵐を
共に体験し、さまざまなものを失って苦しみ、息を詰めて全ての
謎が解き明かされるのを見つめ、嵐の去った後の青空を見上げる。
そこには、大きな喪失感と愛の記憶が残っている。

血湧き肉躍るヒロイックファンタジーとは、一線を画する世界。
杖から呪文で出てくる魔法はひとつもなく。
大地の沈黙から闇を織り上げ、もつれた糸で迷路の幻想を編む。
魔術師の心が放つ”叫び”は、大気を震わせ山を崩壊させる。

大人になって読み返すと、作者の風景描写の巧さに驚きます。
魔法の・・・”力”のあり方と、世界のあり方が綿密に絡み合って
存在し、世界観と物語構成の隙のなさがテーマに直結する。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・映像化には向かないですねぇ。
読者が頭の中でイメージしたもの以上の映像を作れると思わない。
・・・・特に、心の中で ”力” を使うところが難しすぎる。

自分が魔術師の世界に踏み込んだような錯覚がする・・・・・という
ような疑似体験は・・・・映像ではなかなか与えられない。
精密な文章を編んで編んで作り上げる幻想だけが可能なこと。

まさに、読書における至高の悦びです。  
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SERA WORKS

 原作:千堂 櫂
  (せんどう かい)

 作画:太刀川 京
  (たちかわ みやこ)