マンガの描き方3:仕上げ

マンガ道
06 /01 2010
◆◆画面を仕上げる過程(第6.5段階~第十段階)◆◆


【第6.5段階・・・消しゴムかけ】

・文字通り、ペン入れした後の原稿から、消しゴムで下絵を消してゆきます。
 人間で言うなら・・・お風呂の時間? 垢を落としてキレイになりましょう。

・マンガや絵に全くの初心者でもできる唯一の作業が消しゴムかけ。
 これが意外と指の力がいる重労働だったりします。原稿用紙をしわくちゃに
 しないように、ペン入れのインクが乾ききっていないところを触らないように、
 手の脂などにも気をつけて、丁寧に消しましょう。



【第七段階・・・ベタ塗り】

・ベタとは原稿の真っ黒な墨部分のことです。人体に例えるなら髪の毛?
 美しくバランスのいいベタ(黒)は、画面に締まりと華を添えますが、
 荒く乱れたベタは画面に混乱と不快さを与えてしまいます。
 (そういう効果を狙うこともできる、大きな視覚的要素があるのです)

・画面を黒く塗る道具は人それぞれです。しかし、現在の主流は手軽さから
 筆ペンの極細~中~太筆などの太さを使い分ける人が多いようです。
 墨の黒光りする美しさを求め、書道用の筆を愛用する人も根強くいます。
 画面の大きさによって、巨大なサインペンや細いミリペンでベタを塗ることも。

・美しいツヤの入った黒髪ベタ等を塗るのには、かなり練習が必要です。
 しかし、単純な夜空などの部分ならば、初心者が手伝いやすい作業で、
 マンガ家の身近には「消しかけの次にベタ塗り」を手伝った人も多いはず。

*単純ベタ塗りは、マンガ家のアシスタントレベルにすると初級ぐらい、
 複雑で美しいツヤベタ(黒髪のキューティクル表現など)ができる人は、
 アシレベル中級以上ぐらいではないでしょうか。



【第八段階・・・ホワイト(修正・効果)】

・ペン入れやベタ塗りで失敗して画面を汚してしまった場合、「ホワイト」で消します。
 修正液や絵の具の白を、濃いめに溶いて細筆や古いペン先で修正する作業です。
 薄いペンの線ならば、カッターで紙の表面を削ることによって消すこともできます。
 
・また「ホワイト」は、最終的な仕上げの場面で重要な働きをします。
 キャラの目に光を入れたり、光が当たった効果を出したり。仕上げに使う時の
 ホワイトは、ペン入れ作業のような緊張感を伴います。



【第九段階・・・トーン貼り】

・トーンは「スクリーントーン」の略で、肉筆で書けないような細かい点を印刷した
 薄い半透明のシールです。中間色の部分や洋服の模様などに貼って使います。
 例えるならば化粧品。全く使わない人もいる反面、何枚も重ね貼りして物凄い
 トーン技を駆使する人も。すっぴんの人と厚化粧の人の違いに似ています。
 
・マンガの画面にバランスよく必要なだけトーンを使うのがいいとされています。
 (ナチュラルメイク的な感じ?)トーンをどれぐらい使うかは、それぞれの画風と
 好みで全く違います。トーンの量が多いほど貼る単純作業が増えますので、
 制作時間を短縮するために手伝う人(アシスタント)を投入したくなる段階です。

・現在トーンの種類は大量にあり、街角や学校内等の背景を描いたものまで
 揃っています。ただし、基本トーン以外は流行り廃りが激しく、使えば使うほど
 お金がかかる。自分で手書きすれば節約できるものもある。マンガ画材の中で、
 一番お金がかかる部分です。(そこも化粧品と似ている)


・トーンを原稿の上に乗せ、普通のカッターで下から透けて見えるペン線になぞって
 軽く切って裏紙から剥がして貼る。トーン貼りに必要なのは正確さと慣れであって、
 マンガの道具の中では扱い易いものです。独創性や才能は発揮されにくい作業。

*トーンを素早くきちんと貼れるなら、アシスタントレベル初級ぐらいでしょうか。
 手先で行う単純作業を長時間続けられる人向きです。

*手先の器用な人が練習すれば身につく、カッターでドットを削ってぼかしたりする
 「トーン削り」という技があります。素早くキレイにトーン削りができるなら、
 アシレベル中級に昇格してもいいぐらいだと思います。



【第十段階・・・完成。見直し】
・さぁ、マンガが描き上がりました!
 後は、セリフがかすれていたり間違っていないか見直しして、ベタ塗りやトーンの
 貼り忘れがないか確認しましょう。ホワイトの修正忘れは恥ずかしいものです。
 ちゃんと通し番号を入れて、正しいページ数でお話を読んでもらえるようにしましょう。

・見直し作業をするためには、締め切りまでに余裕を持って原稿を仕上げることが
 必要です。時間的に見直しができるなら、印刷されてから間違いに気付いて
 苦しむことが圧倒的に減るのですから。



★おしまい★

 こんなところまで読んでくださってありがとうございました!
 自分、これを書きながら気が遠くなってきましたよ・・・(苦笑)。
 

マンガの描き方2:作画

マンガ道
06 /01 2010
◆◆絵を実際に描く過程(第四段階~第六段階)◆◆


【第四段階・・・下絵(アタリと呼ぶことも)】

・ネームを元に、原稿用紙(マンガ用上質紙)に下書きを描いてゆきます。
 人体に例えるなら筋肉。マンガという作業の中で画才が最も発揮されるところ。
 マンガに必須の「フキダシ(セリフ)」の位置や画面全体の配置を最終的に
 決める段階です。ここで、ネームを変えて最終調節することも多いです。

・描き方は人それぞれ。ものすごく細かく完全に下絵を入れる人もいれば、
 簡単に大まかに下絵を描いて、ペン入れの時に一発書き!みたいな人も。
 (大まかであるほど、下絵からアタリと呼ばれる状態になってゆきます)

・下絵段階で最大の敵は、デッサンと遠近法だと思われます。
 きちんとした絵を描きたい人ほど、下絵でえんえんと苦しみます。
 描いた人物の下絵を裏から光に透かして見て、変だったら描き直し。
 ただし、絵の勢いや歪んだ個性を生かしたい方は、裏から透かしたりしないで
 歪んだ下絵のまま、作業を進めるのも選択肢のひとつです。




【第五段階・・・ペン入れ(人物)】

・原稿用紙に描かれた下書きを、つけペン(Gペン、丸ペン等のマンガ用ペン)で
 清書してゆきます。人体なら皮膚の部分。いかにもマンガ!という作業です。
 ヨレヨレのペン線だと絵もヨレヨレに見え、美しいペン線で描かれたものは
 より美しく見えます。肌の綺麗な人が美人に見えるのと同じ法則です。

・力強く勢いのある線を引く人もいれば、丁寧に細い線で下書きをなぞってゆく
 人もいて、ペン入れの仕方はそれぞれです。書道の筆使いに近い感覚かも。
 マンガ用のつけペンは特殊な形状なので、使いこなすには練習が必要です。
 
・ペン入れの道具も人それぞれ。自分の描きたい世界観に合ったペン先や画材
 (つけペンの他に、細筆やサインペン、ミリペン等々)を使います。
 自分の画風に必要なペン線のあり方を探して、試行錯誤する人が多いです。

*マンガが紙に印刷されるものである限り、印刷に適した画材を使うことが必要です。
 こだわりの高級画材で描いても、きれいに印刷できなければ意味がない。
 また、鉛筆やシャープペンでは印刷した時、美しいペンの線に敵わないのです。
 (例外として、鉛筆デッサン画で素晴らしい効果を出す人もいます)



【第六段階・・・ペン入れ(背景、小物、モブ、効果線)】

・人物と同時にペン入れしてゆく人もいれば、背景だけトーン(第九段階参照)に
 したり、お金を払ってアシスタントに描いてもらったりする人もいます。

・背景&モブ(通行人等)作業に必要なのは、必要な情報を伝える正確さです。
 スピード感やびっくり感を演出する効果線には、場面にあった勢いが必須。
 ただし、どちらも画面全体に合ったバランス感覚が大切です。

・自分で背景を描くマンガ家の場合、背景ではペン先を細いものに替えたり、
 モブをメインのキャラクターよりあっさり描き込むなどの、力加減を意識します。
 脇役や背景の景色が、同じ画面上で主役より目立ってはイケナイのです。
 (もちろん、演出として必要な場合は主役より目立つこともあります)

・背景と効果線は、地味ながら確実な画力を求められる作業です。
 人物の絵だけ上手くても、背景がお粗末だと素人っぽく見えるもの。
 忙しいプロマンガ家が「画力の確かなアシスタント」に背景を任せるのは、
 手抜きが目立つ部分ゆえに、大事に処理したいからです。


*目立つキャラクター(主役級)のみ、マンガ家の先生が自分でペン入れをして、
 顔のない通行人や群衆(これを総称して「モブ」という)と背景をアシスタントが
 下書からペン入れまでするような作業分担は、プロの現場でよく見る流れです。


(追記では、マンガ家のアシスタントについて補足)

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マンガの描き方1:お話

マンガ道
06 /01 2010
ふと、雑談の際にマンガについて語ることがあると。
ついつい熱くマニアックになってしまうことが多いです。
しかも、マンガを描く側のネタになると、思うところがありすぎて。
マンガに詳しくない人に説明するのは、至難の業になってしまう。

というわけで。自分の脳内を整理する為に、またマンガの描き方について
基本的なことを知りたい人のために文章にしてみます。
(!注意! これを読んでもマンガが描けるようにはなりません)



【大前提】
「物語」を一枚絵ではなく、「コマ割り」にして物語の流れと起承転結を
判りやすくメリハリをつけて表現したもの・・・・が、『マンガ』だと思います。

4コママンガや絵本的なマンガなど、この定義でないものは多いですが、
ここでは現在主流の『ストーリーマンガ』の描き方の流れにポイントを
絞って書きます。それでも、すごく長くなってしまいました;

*あくまで私(原作担当)個人の経験からとらえた”マンガ”の描き方ですので、
 全てのマンガ家がこの範疇に収まる描き方をしているわけではありません。
 「なんとなくマンガのできる流れが判るといいなぁ」という程度のものです。

★今回、パソコンでマンガを描く話には全く触れていません。ご了承下さい。




◆◆物語を考える過程(第一段階~第三段階)◆◆

【第一段階・・・発想・ネタ】

・「話を思いつく」もしくは「描きたいものを思い浮かべる」ことから始まります。
 主要キャラクターの初期イメージを落書きの形で描きまくります。
 人体部分に例えるなら・・・脳細胞。この段階の物語はあいまいな断片です。

・妄想・空想を楽しくどんどん膨らましてゆく時ですが、その途中でマメに
 ”こういうのって、他の人が描いてなかったっけ?”と、自分で検証するのも
 大事なことです。面白かったマンガや映画などの影響は受けてしまうものですが、
 既成のものと全く同じでは、新たに書き出す意味がないのです。
  


【第二段階・・・プロット】

・ぼんやり考えていた空想を、起承転結のあるストーリーにします。
 これは人体に例えるなら背骨みたいなもの。背骨がしっかりしていなかったり、
 歪んでいると作品全体の出来を左右します。
 プロットは、作者自身が物語の流れを把握するために書くメモ書き程度のもの。

・理想的なプロットにはきちんと「伏線」と「伏線の回収」が明記されている。
 ただの”あらすじ”ではないということを、自分も最近になって知りました…(←ダメダメ)。
 
・この段階で初めて他人に「こういう話を考えてるんだよ」と話すことができます。
 また、他人に話すことによって、同じような話が他にないか、構成がおかしくないか
 初期段階で検証できるという利点があります。



【第三段階・・・ネーム(絵コンテ)】

・マンガという表現方法の最も特殊かつ独特な部分です。人体なら骨格そのもの。
 頭の中にある物語を、マンガのページをめくる読者の視点を意識しながら
 紙の上にコマ割りとセリフを中心に展開してゆきます。
 
・特にページ数が決まっている場合には、ページ内でどのように起承転結を構成し、
 見せ場をどこに作るか等を検討するマンガの設計図として大活躍するものです。
 ネームに一番時間をかけるというマンガ家は多く、納得がいくまで何枚も描き直す
 ことがあります。物語としてのマンガは、ネームで完結してしまうのです。

・ネームの描き方は人それぞれです。コマ割りとセリフだけの人もいれば、
 下書きみたいに背景・人物の表情入りネームを描く人もいます。
 書く紙もそれぞれ。B5のルーズリーフ1枚を1ページ用に使う人もいれば、
 同じ紙に4ページ分の簡略ネームを細々描く人もいたり。
 (ネームを他人に読んでもらう場合は、ある程度丁寧に描いた方がいいです)

・プロマンガ家が編集さんと打ち合わせするのは、主にこのネームの段階です。
 細かい設定や物語の修正、ページ数の調整などもネームで行います。
 
*・・・・・・小説家の書いた完成原稿と、きちんと描かれたマンガのネームは、
 物語として、同じぐらいの段階(存在?)ではないのかと個人的に思っています。


 
そして話(ネーム)がまとまって、やっと絵を描く作業に入ります。
世の中には、第一段階から第三段階をすっ飛ばして、第四段階の下絵から
マンガを描く人もいますが、それは物凄い天才か単なる手抜きかのどちらかです。
プロでは鳥山明先生と一条ゆかり先生が、ネームを描かない書き方で有名です。

アマチュアや新人マンガ家(卵を含む)は、プロット→ネーム→下絵という手順で
数をこなしてからでないと、話をまとめることさえできないので注意しましょう。



「マンガの描き方2:作画」へつづく

SERA WORKS

 原作:千堂 櫂
  (せんどう かい)

 作画:太刀川 京
  (たちかわ みやこ)